大規模災害が生じて建築物が崩壊し、人間が瓦礫の下敷きになったとき、できる限り早期に発見、救出する必要がある。本研究では周波数10GHzのマイクロ波を瓦礫に照射し、その反射波から人体を検知する方法について、検知の可能性、検知限界などを検討した。 電磁波には回折性、透過性があるので、瓦礫に向けて照射された電磁波は瓦礫下の人体に達し、反射波には人体からの反射が含まれている。しかし、人体からの反射は他の反射成分に比べて非常に小さく、おおよそ1/1000から1/100000程度と見積もられ、単に反射波を観測しただけでは人体の検知はできない。本研究では、呼吸に伴う体の物理的な変化-例えば体の厚みや位置の変化、密度の変化-が反射波に周期的な変動を引き起こす点に注目し、瓦礫表面などからの反射は回路的にキャンセル手法を用いて変動成分を抽出した。もし、定常成分を除去した後に呼吸や鼓動に同期した変動と見られる変動成分が観測されたなら瓦礫下に人体が存在すると考えることができる。実験は木製の箱に建築廃材を詰め込んだ瓦礫モデルを用いて行った。 ここで用いた検知回路は比較的単純な構成であり、調整箇所も少なく、災害現場での使用にも便利で十分実用になると見込んでいる。定常波成分をキャンセルするために行う検知回路のスタブ調整は素早く行うことが重要であり、実験を担当した学生では練習を積んだ後では30秒ほどで調整を完了することができた。 人体反射波の変動成分は瓦礫の遮蔽を受けるので、深い位置にある人体ほど変動成分は小さくなり、検知は難しくなる。理論的には定常波成分を変動成分と同程度にまでキャンセルすれば変動成分が検知可能である。本研究で用いた検知回路では定常波成分のキャンセル量は最大70dB程度可能であり、このことより、本研究で用いた瓦礫モデルから想定すると80cm程度の深さの瓦礫の裏側に埋まっている人体が検知可能であるとの結果を得た。 検知深さは瓦礫の密度や瓦礫の組成(木材瓦礫かコンクリートや鉄筋の瓦礫か、水分を含むか)によって異なる。実際問題として現状の瓦礫モデルを使ったときには少なくとも2mくらいの検知深さは必要であろうと推測している。測定波形のノイズ軽減処理、整合板使用による定常波成分の除去等の検討を続け、検知深さをさらに深くする改良を行う。
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