研究概要 |
近年,進化的計算手法を用いてロボットの制御器あるいは形態をもボトムアップ的に構築することを目指す進化ロボティクスと呼ばれる分野が注目を集めている.この分野では,特に制御器をニューラルネットワークで表現し,その構造ならびにシナプス荷重を進化的に獲得する研究例が数多く報告されている.しかしながら,これらの研究の大部分は,学習と進化過程が乖離しており,環境の変動に対する脆弱性,新規能力の獲得時における既存能力の破壊といった問題点が指摘されている.一方,近年の神経生理学の研究により,神経回路は状況に応じて動的かつ迅速に回路特性が変化していることが明らかになった.これらの興味深い現象は,neuromodulator(以下,NM)と呼ばれる化学物質の働きによるものと考えられている. そこで申請者は,このNMの働きを工学的に模擬することにより,神経回路の学習ならびに構造を感覚入力(環境)に応じて動的に調節する手法の構築を目指している.本手法の特徴は,進化の対象を『ある状況下での適切なニューロン間の相関(学習)の取り方』としたことである.具体的には,どのニューロンから荷重あるいは結合の変化を司るNMを拡散し,どのシナプスにNMのレセプタを用意するかの決定を進化の対象とした.平成12年度は,この概念を用いて2脚,4脚といった歩行ロボットの適応制御器の構築,ならびに効率的な進化手法の開発に関する考察を主に行った.その結果,提案する手法は,従来手法に比べて進化能力ならびに適応能力を飛躍的に高めることができることを数値実験の結果明らかになった. 次年度では,遺伝情報量の低減のために,発生過程の概念を導入することを試みる.また,発現する知能と身体性の関係を調べるために,歩行ロボットのボディパラメータを様々に変化させ,身体性と進化能力の関係を定量的に評価することも併せて試みる.
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