鋼橋に用いられる継手の中で疲労強度上の弱点とされている面外ガセット溶接継手を対象とし、その溶接止端を異種金属で溶射被覆することによる疲労強度の向上効果についてモデル試験体を用いた疲労試験と有限要素応力解析を行うことにより検討する。疲労試験には、溶接のままの面外ガセットすみ肉溶接継手試験体、その溶接止端をガスフレーム溶射で亜鉛被覆した試験体、プラズマ溶射でNi-Al、Cu-AlあるいはTiを溶射被覆した試験体の計5種類の試験体を用いる。ここで得られた主な結果は以下の通りである。 (1)疲労試験を行った結果、いずれの溶射試験体においても疲労強度にさほど違いが認められず、As-Weld試験体とほぼ同じであった。すなわち、溶射による疲労強度改善効果が認めらなかった。 (2)溶射試験体の疲労破壊の起点としては溶接止端近傍と溶射止端が考えられたが、すべての試験体で溶接止端近傍から疲労破壊に至った。 (3)有限要素応力解析より、ガスフレーム溶射試験体の溶射部のヤング率が鋼材の0.15程度以下、プラズマ溶射試験体の溶射部のヤング率が鋼材の0.4程度以下であれば、As-Weld試験体の溶接止端の疲労亀裂発生よりも早い段階で溶射部から疲労亀裂が発生する可能性が高いという結果が得られた。 (4)溶射による疲労強度改善効果が認められなかった原因は、溶射部のヤング率が空孔混入などにより溶射用金属単体よりも大幅に低下し、溶射部から早い段階で疲労亀裂が発生して溶射部の応力伝達機能が失われ、As-Weld試験体以上の高い応力集中が溶接止端に生じたことにあると考えられる。 (5)溶射により疲労強度を向上させるには、溶射部のヤング率を高くし、溶射層を厚くする必要がある。
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