橋梁などの鋼構造物には十字、T字、面外ガセットなどのすみ肉溶接継手が多用されているが、疲労損傷の多くはこのすみ肉溶接の止端から生じている。特に面外ガセット継手は疲労強度が低く、疲労損傷が生じやすいとされている。このような疲労損傷を防止するための有効な方法の一つとして、溶接止端に何らかの処置を施すことにより応力集中を緩和し疲労強度を向上させることが考えられる。その方法としては、グラインダーやTIGなどで溶接止端を仕上げて曲率半径ρを大きくすることにより止端形状を滑らかにするのが一般的である。また、曲率半径ρではなく、既存の溶接止端に付加溶接を行い、フランク角θを大きくすることにより止端形状を滑らかにして応力集中を緩和する方法もある。 本研究では、このような従来の方法ではなく、既存の溶接止端に異種金属材料を溶射被覆して溶接止端の応力集中を軽減することによる疲労強度改善の可能性について、面外ガセットすみ肉溶接継手(As-Weld)とその溶接止端に4種類(Zn、Ni-Al、Cu-Al、Ti)の溶射を施したモデル試験体を用いた疲労試験と3次元有限要素応力解析を行うことにより検討し、以下の結果を得た。 (1)4種類の溶射試験体の疲労強度にほとんど差はなかった。また、それらはAs-Weld試験体と同程度であった。 (2)このように溶射による疲労強度の改善が認められなかった原因は、溶射部のヤング率が低く、早い段階で溶射部に亀裂が発生して溶射による応力伝達機能が失われたためと考えられる。 (3)溶射により疲労強度を改善するためには、溶射の厚さを3mm程度以上とし、またそのヤング率を鋼の0.5以上とする必要がある。
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