移動型火災旋風は、火災による上昇流と接近風との相互作用によって生じるもので、本研究では、特に地表粗度が移動型火災旋風の発生形態および流況に与える影響を、主として室内実験で明らかにすることを目的とした。まず、可視化実験の容易な水路実験で、火災旋風に類似の現象を再現した。具体的には、水路の流れ(一般風に相応する)の中に水路の床面から噴流(火災による上昇流を模した)を放出した。噴流の放出口の形状は、火災旋風が起きやすいといわれる「コ」の字型とした(右側が上流)。そして、染料で可視化して観察するとともに、電磁流速計による点計測や画像処理による面計測により、火災旋風の発生形態と流況を把握した。その結果、以下のような3つの特徴が見られた。 1.火災による上昇流が接近風に対して十分な強さになって初めて、火災旋風が発生する。接近風と火災域幅によるレイノルズ数が小さいと火災域後方に固定された渦が生じ(固定渦)、大きいと左右交互に渦が放出される(放出渦)。地表粗度が大きいと接近風の境界層が厚くなり、接近風を見かけ上弱くする効果がある。 2.固定渦の場合には、火災域後方において上流へ向かう強い流れが見られ、これによる乱れの発生が顕著であった。また上昇流の両側に、接近風の流向に軸を有する回転流が対を成しており、流下とともに上方に移流しながら拡散している様子を定量的に捉えることができた。 3.放出渦の場合、個々の渦の流下とともにその渦度が減衰していくと同時に、底面から上昇流が発生していることが定量的に確認された。これは火災域からの上昇流とは異なり、渦の流下とともに増加して一定値をとり、渦自体の減衰にともない消失するようであった。
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