近年、生態系のモデリング手法として応用されているニューラルネットワークモデルを用いて、カビ臭の発生予測を試みた。ここでは、予測対象を渡良瀬貯水池とした。渡良瀬貯水池が平成2年に運用されてから、平成8年度までの貯水池水質と植物プランクトンとの変遷について、様々な水質および気象データを整理した上で、ニューラルネットワークモデルの入力とする。出力として、2-MIBなどのカビ臭物質及び植物プランクトン種(優占種)の長期的な変動傾向を予測した。平成3年から平成5年までのデータでニューラルネットワークモデルを学習させた。良く学習されたニューラルネットワークモデルを用いて予測計算した結果、カビ臭物質の実測値とはピークの大きさはやや乖離しているものの、カビ臭のピークのタイミングは良く一致していることが示された。入力パラメータの感度解析を行った結果、予測計算値に最も大きな影響を与える入力因子は、貯水容量とDOであり、次に影響の大きな入力因子は、日射、pH、硝酸態窒素であることがわかった。またカビ臭物質の制御という観点から、渡良瀬貯水池では、臭気物質濃度が50pptを超えると下流側の水道水利用に悪影響をもたらす。そこで、閾値を50pptとして、この閾値を越えるかどうかについて、ニューラルネットワークモデルによる予測計算を行った。予測期間を9日とすると、ピークの立ち上がりが良く再現できた。さらに予測値に対する実測値の確率分布図より、ニューラルネットワークモデルが50ppt以上と予測した場合の正解率は90%となり、モデルの予測結果に対する信頼性は高いことが示された。
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