研究概要 |
本研究では,開発途上国大都市での環境政策の具体的な立案支援に資することを目的として,都市および交通に関わる戦略的分析システムの開発を行い,マニラ首都圏を対象に環境変化のシミュレーション分析を行った.都市環境問題に関する体系な把握のために,1)経済成長,2)モータリゼーション,3)都市の空間的拡大,4)交通インフラ整備の遅延,および5)交通渋滞・混雑と環境問題の深刻化という一連の現象を対象として,開発途上国群の成長と都市環境問題の発生との間に存在する共通法則性および空間・時間固有性,プロセス依存性等を広領域知識ベースとして表現した. まず,途上国大都市の交通問題の所在を経済成長,都市膨張を自動車依存の相乗作用による負の社会的影響と定義した.そして自動車保有への主要な影響要因が中高所得世帯の立地および市街地の土地利用混在度であることを明らかにした上で,所得階層別の居住立地とスプロール市街地の形成メカニズムを捉え,都市化とモータリゼーションの相互作用系を都市活動連関モデル,土地利用モデル,交通需要予測モデルを開発・統合し、システム化した.そしてこれを東南アジアで最も深刻な交通渋滞を抱えるマニラ首都圏に適用し,プライシング等の経済施策,軌道系交通整備および都市政策等の効果を,自動車保有率,走行量,環境負荷の抑制およびこれらを考慮した厚生変化により評価した.さらに,居住環境・緑地環境の動態予測を可能とするシミュレーションシステムに拡張する為,ヘドニックアプローチによる住環境価値の定量化を試み,土地利用変化及び住環境変化に伴う環境費用の計測が可能なミクロ土地利用モデルの構築を行った.その結果、マニラ首都圏の住宅地における緑被の限界価値を計測した.そして現状趨勢型の将来シナリオの下で土地利用の変化に伴う環境変化のシミュレーション分析を行い、緑被率の減少に伴う環境被害を算出した.
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