本テーマを進めるにあたっては、まず、土木構造物の分野ごとの特徴的な技術・意匠の時系列的・地域的な変化を解明する必要がある。そしてその上で、個々の技術・意匠について、近世以来の伝統的な技術・意匠がどう反映されたのか、されなかったのかを分析することになる。初年度は、前者の近代における技術と意匠の内容とその変化を捉えることに的を絞り、おおよその流れをつかむことができた。 橋は、道路と鉄道で動向が異なるが、煉瓦、鉄、鉄筋コンクリート(RC)が西欧直輸入の形で導入され、明治末期の構造用鋼材の国産化、大正期のRC技術の普及に伴い恒久橋が普及する時代を迎えた。そこには、西日本の石橋、社寺橋など一部を除き、伝統的技術の出番はどこにもなかった。 トンネルは、石・煉瓦からコンクリートへと進化したが、そこで見られた施工技術は、測量術を含め、基本的に日本古来のものであった。意匠的には、和風・洋風が拮抗した。 ダムは、砂防、発電、農業、水道で別々の発達を遂げた。砂防は、近世の石を扱う技術が活用され、空積から練積に形を変えたが戦前ずっと引き継がれた。発電は、練積から出発したが、大正期以降の重力式コンクリートダムはアメリカからの直輸入であった。農業は近世の溜池や堰の築造技術の延長線上にあるものが多く、水道は発電より早い段階から西欧のハイダム技術の導入に熱心であった。 この他、河川堤防・水制、防波堤・護岸、農業・干拓樋門、運河閘門、駅舎、灯台、ドック、鉱山、発電所、水道施設、軍事施設などで近世〜近代の技術の変化を規定することができた。 最終年度では、こうした知見を踏まえ、代表的な個々の技術・意匠について、近代のどの時代区分・どの地域に、どのようような形で伝統的な技術・意匠が反映されたのかを解明する。
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