本研究は、夏期という病原体の増殖しやすい時期に大震災が起きる場合の水の安全性について研究するものである。現在わが国をはじめ世界的に見て震災時に流行しそうな病原体の種類、上水道水源を汚染する程度、雑用水に利用される河川の病原体が検出されるレベル、井戸水の安全性を評価する。本年度は、水系感染症が起きた場合の河川中の病原体の濃度の実態と予測、下水道の被害と水質汚濁の関係、糞便量と指標微生物の自然減衰、消毒剤の消耗について調べた。震災時はトイレが使用不可能になる可能性が高い。人の糞便量と大腸菌群濃度を測定し、野外に放置された場合の病原体の自然減衰を実験で確かめた。それらより、トイレの不備が河川を汚染して、その水を利用することによる感染症リスクを推定した。最悪の場合には相当の被害が発生すると予測できたが、気温が高い時期に大震災があった台湾で、予想したほどの水系感染症流行がなぜ起きなかった。その間の事情を知るために実際に台湾に行って調査した。基本的には水利用形態がわが国と異なることがその理由であることがわかった。水系感染症が起きなかったことにより、また河川と住居との関係が密接でなかったことにより、暑い地域であるにもかかわらず衛生状態がそれほど悪くならなかった。震災時に水が危険になる可能性は、排泄関係のほか飲料水の利用形態、河川と定住状態の関係、もともとの地域の衛生状態によって大きく左右されることがわかった。
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