研究概要 |
本研究は、後期残響音の3次元的な到来方向やレベルといった音響物理特性と、ホール音場を評価する重要な心理的要因の一つである"音に包まれた感じ"(Listener envelopment : LEV)の関係を明らかにするとともに、後期音エネルギの空間的なバランスに着目した物理指標並びにその計測方法について検討し、コンサートホールの音響設計に資する客観的指標を獲得しょうとするものである。 前年度までの検討結果から、側方成分を持たない後方や上方から到来する後期音もまたLEVに有意に寄与することを示すとともに、初期音対後期音エネルギ比C_<80>を一定とした場合の方向別後期音エネルギ率のLEVへの寄与の度合い等について明らかにした。 さらにLEVには、後期音の到来方向分布だけではなく初期音エネルギに対する後期音エネルギの割合も寄与すると考えられる。そこで最終年度は、これまでの検討結果を踏まえた上で、方向別後期音レベルと後期音の到来方向分布に加えC_<80>も併せて変化させた刺激音場を用いた音響心理実験を行い、側方,後方,上方の方向別後期音エネルギ率並びにC_<80>がLEVに与える影響について検討した。 その結果、LEVに対するC_<80>の負の寄与が大きいこと、後期音の方向別エネルギ率については側方後期音エネルギ率の影響が最も大きく、後方および上方後期音エネルギ率の寄与は側方の3割から6割であることを明らかにした。これらの結果は、コンサートホールにおけるLEVの設計に際し、後期音エネルギ並びに後期音の到来方向分布を考慮することが必要であることを示すものである。 今後は、コンサートホール音場における後期音のエネルギ量とその到来方向分布を考慮したLEVの評価指標や、それを実際の音響設計へ反映させる手法について検討する必要があると考える。
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