研究概要 |
本研究の目的は、1.ホール音場を評価する重要な心理的要因の一つである"音に包まれた感じ"(Listener envelopment : LEV)と後期残響音の方向分布特性の関係、並びに2.実際の音場における後期残響音の特性を明らかにし、コンサートホールの音響設計に資する客観的指標を獲得することにある。研究成果の概要を以下にまとめる。 1.後期残響音の到来方向がLEVに与える影響について、音響心理実験により、以下のことを明らかにした。 (1)側方反射音レベルだけでなく、上方並びに後方から到来する後期音レベルもまたLEVと正の相関関係にある (2)側方以外から到来する後期音もまたLEVに影響し、その寄与の度合いは側方,後方,上方,前方の順に大きい (3)後期音レベルがある程度大きい場合(初期音対後期音エネルギ比C_<80>=-3〜0dB)、後方並びに上方後期音エネルギ率の寄与は、側方エネルギ率の3〜5割である (4)後期音レベルが小さい場合(C_<80>=3dB)には、それらの寄与は小さい (5)C_<80>のLEVへの寄与は、方向別後期音エネルギ率に比べて大きい 2.実際の音場における後期残響音の特性について、既存ホールにおける音場測定により、以下のことを明らかにした。 (1)方向別後期音レベルの変化幅は、前後方向成分が3〜5dB(平均42dB)で最も小さく、側方成分が2〜9dB(平均5.7dB)、そして鉛直方向成分が6〜18dB(平均9.1dB)である (2)後期音エネルギの後方/前方レベル差は-1〜-5dBであり、ホールおよび音源-観測点間の距離にはほとんど依存しない (3)ホール形態の違い(シューボックス型コンサートホールと扇形多目的ホール等)により、後期音レベルの距離減衰特性、特に鉛直方向成分の減衰量に大きな差が生じる (4)方向別後期音レベルの距離減衰特性の考察から、従来の全方向音圧レベルだけでは得られないホール音場の質的差を知ることができる (5)後期音の方向分布特性は、音場の拡散性を強く反映する点からホール音場を評価するための重要な指標となりうる
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