本研究では、河川水や地下水といった風土に根ざした自然水利を、災害時の水利不足を補うフェイルセイフ機能を持つ貴重な水として位置づけ、断水時にも既存の都市内河川や井戸等を、防災水利として有効に活用するための方法論について整理を行う。さらに世界的な木造文化財や町家を多数有し、地震災害に対する極めて早急な対策が待たれている日本の代表的な木造文化都市、京都を一つの対象として、これらの整備方法を既存の都市内河川や井戸等へ応用し、特に消防水利としての有効性について評価することを試みた。 まず、水利特性を中心とした地域特性毎に、京都市内から6地域を選定してアンケート調査を行い、地域に存在する水を防災水利として活用する上での、現状の住民意識について明らかにした。問題点の整理を通じて、地域の水を身近な水として認識されるための要件を示し、防災水利として位置づけるための計画方針を導出した。 さらに、意識調査で得た方針を踏まえ、対象とした6地域をケーススタディとする防災水利整備計画を提案し、防災水利の中でも最も水量を必要とする消防水利としての能力評価を行った。この際、各地域特性に応じて、市民による初期消火活動、公設消防による通常規模の消火活動大規模な市街地火災に対する延焼防止活動の、3つの活動段階別に必要な水利整備を計画し、3重のフェイルセイフの確保を目標とした。併せて、人間と自然水利との間に日常的な関係性を誘発するための、計画とデザインについて指針を示した。 最後に、既存の都市内河川や井戸等を防災水利として活用する方法について、具体的な実績を参考として示すため、古来より育まれてきたシンプルな利水方法を中心に、調査を通じて事例の整理を行った。
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