我が国の建築技術の発展は、高等教育機関によるだけでなく、書籍の出版も大きく寄与していた。明治から昭和20年までの発刊数は、本研究の成果から約4000冊がリストアップできた。そして、内容的には西欧の建設技術を翻訳して伝えるものから、工学分野では独自の発展に至った。その理由の一つとして、我が国固有の濃尾地震の災害が関係していた。その後は建物の用途が多様化し、新しい建物の計画や設備の関する書籍が多く登場するようになる。建築史と建築論は、これに比べ出現が少し遅い。また、建築専門の書籍でなく、一般書籍でも建築が扱われるようになり、住宅を中心に研究成果の普及をみている。この点は日常生活に関係の深い建築分野の特徴といえる。また、建築のもつ文化的側面も大きく関係していた。 昭和初期の発刊された3つの建築叢書の内容を比較した結果では、建築全般を扱いながらも編集者の建築に対する考え方が異なっていることが、取り上げられた内容の他に、掲載量にも相違のあることが判明した。しかしながら、これらの叢書は学校での教科書のほかに、実用書として一般技術者に利用されやすい編集がなされていた。 建築技術書の著者に関する分析では、幅広い分野を扱う建築にあっては、明治の頃は工部大学校の卒業生や教官によるものが殆どであったが、建築の普及に伴い、実務を主とする技術者の執筆も増えてきた。さらに、力学や設備では他の理学、工学分野の執筆者が多く存在していたことが明らかになった。
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