本研究は日本近代建築史の総合的把握のうえに立って、そこにおける和風の理念と実際的様相を比較検討してゆこうとするものである。研究方法は文献調査を中心にしたものから出発し、現地調査の位置づけが組み合わされる。そのうえで、日本の近代精神史研究としてまとめられる。 日本における近代和風建築史研究の現状の批判的把握 日本近代建築史研究の成果は枚挙にいとまがないが、それらのうち、近代和風建築史研究上の問題点を整理し、把握し直す。戦前までの日本の和風建築文化を近代和風と呼んでいるが、その実態は十分に解明されているとは言い難い。この研究のなかで行なったのは、そうした近代和風建築のあり方を庭園との関連において調査し、論考を纏めることであった。昨年の研究の纏めによって、長尾欽彌別邸である鎌倉の扇湖山荘の調査報告を取りまとめることができた。これは近代和風庭園の歴史に大きな足跡を残した小川治兵衛最晩年の作庭の調査であり、戦前における関西の和風表現が関東において実現された最後の作品といえるものである。 ここから、和風建築と庭園の関係を一般化する視点が開け、そうした側面の研究を展開することも可能になった。この成果は2002年2月にフィンランドで開催されたシンポジウムにおいて、「Listen to the Place」と題する基調講演を行なう機会に発表することができた。戦前の近代和風文化の特質は、日本の特殊な時代における特殊な表現ではなく、ひとつの文化表現としての普遍性のなかで位置づけられることが確認できたように思う。これもまた、本研究の大きな成果のひとつであったといえよう。
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