和歌山県橋本市中心市街地地区では土地区画整理事業に伴い、地域内における500棟余りの建物が更新される予定であるが、同地区内には県内では建築年代の判明する町家では最古とされる本陣池永家住宅(宝暦2・1752年)を始めとして、江戸時代後期以後の町家が軒を連ねている。 今年度の研究では第一に遺構調査として、解体・取り壊しに先立ち、一旦公有化された物件を中心に、22件の物件について、一部では中古の部材の撤去・解体なども行った上で、復原考察を含む、徹底した建築的調査を進め、併せて綿密な写真撮影による記録を行った。調査の内訳は町家14件、長屋6件、旅館1件、宗教建築1件である。また、昨年度の内に建物が解体された1件については、敷地が地域内においても重要と考えられ、既に更地となっているために当該地の発掘調査を試みた。加えて、駅前を始め3地区において連続立面図の調査・採取を行った。また、平行して実地・文献調査により都市形成に関する史料の収集・分析に当たった。 論文発表は調査遺構の内、特に分析の進んだ旅館建築を中心に行った。先ず、論文では橋本が明治時代後期の鉄道敷設以後、町並みとしても大きく変容したことを示した。そして従来の大壁ツシ二階建で窓面積が極端に狭い形式の町家とは異なる、真壁総二階建で広い窓面積を有する新しい建築の形式を持つ建物が、旅館などの施設としてそれまでは農地に過ぎなかった駅前の地域を中心に、限られた敷地の中に客室を多く配し、かつ高密度に、建てられたことを示した。 なお、本年度の研究により得た成果の一部は年度末、地域住民に対して研究発表会という形で還元し、同時に地域住民からの意見を聞く機会を得ることができた。
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