研究概要 |
平成12年度:レーザー蒸発型クラスター堆積装置た遷移金属系酸化物クラスター作製を行い、これまで研究報告がなかった新たな安定酸化物クラスター(マジック・ナンバー・クラスター)の存在を明らかにした。Fe、Co、Ni系の酸化物クラスターでは、M_9O_6、M_<13>O_8、M_<43>O_<20>(M=Fe, Co, Ni)がマジック・ナンバー・クラスターであること、Mo酸化物系ではMo_<14>O_<42>が極めて生成量が多く、さらにMo_7O_<21>とMO_9O_<27>も安定クラスターであることを見いだした。同族元素であるWでも同様の安定クラスターが観測されており、バルクでの安定酸化物であるMoO_3もしくはWO_3と関連し、構造のみならず電子状態が関係したマジック・ナンバー・クラスターであると推測される。これら酸化物マジック・ナンバー・クラスターの観測が可能になったのは、クラスター源の改良を行い、質量数が数千(amu)までのクラスターを大量に安定して作成できるようになった結果である。 平成13年度:これらマジック・ナンバー・クラスターについて、第1原理に基づく安定構造と電子状態の理論計算を進めている。遷移金属クラスターについては本研究以前に正20面体構造に起因すると考えられる7、13そして19個の原子を含むマジック・ナンバー・クラスターについて実験的観測を行い報告しており、金属クラスターとそれらの酸化物クラスターについて光励起法により電子状態の実験的観測を試み、第1原理計算によるマジック・ナンバー・クラスターの安定構造と電子状態の理論計算と合わせて、安定クラスターの起源についてより詳細に研究を行った。これらの結果は、酸化物クラスターでは必ずしも幾何学的構造安定性だけではなく、電子状態すなわち金属原子と酸素原子との結合に支配される要因があることを示している。また、遷移金属酸化物マジックナンバークラスターの磁性については、第1原理計算から求めた電子状態から、FeならびにCoでは金属原子同士の強磁性結合と酸素原子でのスピンの反強磁性的配向が見られた。Niではクラスターサイズに依存し、強磁性から反強磁性配向への変化がM_9O_6からM_<13>O_8で起こっていることが分かった。このような電子状態の理論計算値と実験結果との対比を現在進めている。
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