研究概要 |
過冷却液体が凝固する際に生ずる発光はレカレッセンスと呼ばれる。例えば、液体銀は凝固点(960℃)よりずっと低い750℃まで液体のままで冷却することが出来る。このように過冷した液体が凝固する時、明るく輝く。レカレッセンスは一般に凝固の際の潜熱の解放に依るものと理解されている。 松本[1]は液体硼砂中に浮遊している銀滴のレカレッセンスの最初に鋭いピークの現れることを見出した。 この発光(特異な発光と呼ぶ)は、過冷凝固の際に固液界面で起こる何らかの電子過程と関連しているものと考えられる。この考えを検証するため本件究ではこの特異な発光を検出し、分光学的情報を得ることを試みた。また、金属と半導体の相違を明らかにするため、融点と最大過冷度が似ている銀とゲルマニウムについても実験を行った。 50mg程度の銀粒を硼砂(Na4B2O7)と共に石英坩堝にいれ1100℃まで熱して両者を溶融し、1100℃と600℃の間で昇温-降温を繰り返し、銀の溶解-凝固を繰り返した。このような熱サイクルを数回行うと凝固温度は低下し始め、レカレッセンスが観察されるようになる。この発光の時間変化を蓄積型オッシロスコープに記録した。銀の場合、過冷度が大きくなる程レカレッセンス強度が増大する。レカレッセンスの持続時間は過冷度が増加するにしたがって減少する;最大過冷度(ΔT=210℃)では、150msである。特異な発光はしばしば観察されたが、強度は小さく最大強度の10%程度であった。現在、この発光の分光分析を継続している。一方、液体ゲルマニウムの凝固速度は小さく、銀に比較してレカレッセンス強度は小さく、その持続時間は長い。ゲルマニウムの場合には、未だ特異な発光を検出していない。以上の結果については、最近のスペース・シャトル内での結晶化の観察結果[2]を考慮に入れ、大きく過冷した液体中での核形成機構を構築し、特異な発光の起こる機構をコンピュータシミュレーションにより理解する試みを行っている。 [1]松本昇、私信 [2]Zheng Cheng, P.M. Chaikin, Jixiang Zhu, W.B.Russel and W.V. Meyer, Phys. Rev. Letters, 88, no.1(2002)015501-1
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