物質の結晶構造を決定する方法としてX線回折法が広く用いられているが、それには「位相問題」と呼ばれる難問が存在している。すなわち、積分強度の測定からはBragg反射の振幅は知り得ても、その位相を知ることができないという問題である。本研究においては、研究代表者らが放射光が連続波長スペクトルを持つ高輝度光であることに着目して考案した新しいBragg反射の位相決定法、X線波長変調回析法を、立命館大学に設置されている超伝導小型放射光源のビームラインBL-1において、対称中心を有する結晶に対して応用した。2結晶モノクロメータを往復回転振動させて時間的に変動する波長を持つ入射X線を作り出し、それに連動して試料して選んだフエロセン誘導体結晶を回転させ、多数のBragg反射をイメージングプレートに記録した。この結晶に含まれるFe原子が異常散乱を生じ、Bragg反射の強度プロフイルにはそれぞれ独自の強度勾配が現われた。各Bragg反射の強度勾配を測定し、一方、この結晶のBragg反射強度データから合成したPatterson図からFe原子の位置を推定し、研究代表者らが導いた関係式を用いてBragg反射の位相、この場合符号、を導出した。その結果とこの結晶について別途行われた構造解析の結果から計算されるBragg反射の位相とを比較し、測定された104個の反射の中、101個について一致を見出し、X線波長変調回折法の有効性を実証することに成功した。
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