研究概要 |
本研究の目的は、結晶場分布をもつ新しい結晶の育成、3原色(青・緑・赤)の広い波長域で発光する光エネルギー蓄積型の長残光の発現、そのメカニズムを明らかにする事である。本研究では、不規則構造に由来する結晶場分布をもつ層状メリライト(Me_2B_2O_7, ; Me=Ca, Sr, Y, Gd ; B=Si, Al), Baシリケート(Ba2So4,BaSi2O5,Ba3SiO5),また超格子構造をもつBaMgF_4,CaNaYF_6をホスト結晶に選び、4f^<n-1>5d^1励起配置の低原子価希土類Eu^<2+>,Ce^<3+>,Sm^<2+>(n=7.1, 6)を添加した新規結晶を育成し、紫外光及び近赤外フェムト秒レーザー励起での分光、長残光を調べ、以下の成果を得た。 1.結晶場分布を有するメリライト型アルミノシリケート(Me_2B_2O_7, ; Me=Ca, Sr, Y, Gd ; B=Al, Si)にEu^<2+>を添加した新しい結晶を合成した。Eu^<2+>添加メリライトは355nmの近紫外光照射により、440〜530nmの青〜緑色の長残光が発現する事を見出した。またEu^<2+> ; CaSrAl2SiO7, Eu^<2+> : CaSrAl2SiO7, Eu^<2+> : Sr2Al2SiO7の時間積分強度の温度変化の解析から、Eu^<2+>の長残光強度は、輻射および非輻射遷移を仮定して導出した式で表されること、Eu^<2+>の長残光は、UV光励起による電子-正孔対の生成、正孔の熱誘起ホッピングを経たトラップ電子とのトンネリングによる電子-正孔の再結合過程で起こるというメカニズムで説明される事を明らかにした。加えてホッピング及び非輻射遷移の活性化エネルギーの組成依存を求め、長残光に関する基礎的知見を得た。 2.Eu^<3+>添加のEu^<2+> : CaSrAl2SiO7単結晶を育成し、これに近赤外(800nm)のフェムト秒レーザーを照射することにより、Eu^<2+>では困難であった620nmの赤色の強いEu^<3+>の長残光が発現することを見い出し、新しい非線形多光子過程による長残光発生法と成り得ることを実証した。 3.Baシリケート(Ba2SiO4, BaSiO5, Ba3SiO5)にEu^<3+>を添加した新規結晶を合成し、355〜460nmのUV〜可視光励起による440〜600nmの青〜橙色の長波長域の長残光を発現する事を見い出した。Baシリケートの長残光強度はメリライトより強く、長残光過程には電子-正孔の再結合が関与するとともにメリライトとは、異なるメカニズムによることを見い出した。 4.付活劑としてCe^<3+>を添加した新規メリライトCa2Al2SiO7, CaYAl3O7単結晶を育成した。UV光照射により、青色長残光の発生を観測し、その残光強度の温度依存性を明らかにした。残光はUV光照射前後の電子スピン共鳴、光スペクトルから、電子-正孔対が、各々、F^+中心、Al^<4+>として自己捕獲中心を形成、熱誘起による活性化エネルギーを得、自己捕獲中心の正孔がホッピングし、Ce^<3+>のサイトで電子-正孔の再結合による発光が起こる過程である事を明らかにした。 5.超格子構造をもつBaMgF_4, CaNaYF_6にSm^<3+> / Sm^<2+>またCe^<3+>を添加した結晶を育成し、長周期構造、光学中心の構造、分光特性を明らかにした。近赤外フェムト秒レーザーを照射により、多光子吸収過程によるSm^<3+>からSm^<2+>への光還元が起こる事を結晶で始めて見出した。光還元により、三次元フォトクロミツク或いは光ホールバーニングメモリー特性発現が可能となった。
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