研究概要 |
遷移金属ジチオカーバマート錯体について配位子の構造と分子会合の様式との関係を詳細に検討した。特にジチオカーバマート配位子の末端に,言い換えると配位圏の周縁部にOHのような水素結合性官能基を導入することにより,これまでに知られていなかった様式の分子間会合が起こり,自己組織化によりフレキシブルな集積錯体となることを明らかとした。例えばOH基を1つもつジチオカーバマートが2分子配位したニッケル錯体は大きさ約8Åのマイクロポア構造をもつ固体構造を示したのに対し,OH基を2つもつジチオカーバマートが2分子配位したニッケル錯体は8Å×3Åの楕円体マイクロポア構造となった。一方,中心ニッケルと末端OH間が環状アルキルスペーサーで隔てられた錯体ではマイクロポア構造となるような自己組織化が認められなかった。このような集積錯体の構造論およびマイクロポア構造を利用したゲスト分子との相互作用について詳細に検討を加えつつある。 上記の成果の中でOH基をもつ錯体であっても,中心金属とOH基間相互の幾何的な空間距離によって分子会合を制御できることを明らかにしているが,分子会合がない場合でも分子内会合が重要となる例を見いだしている。このような分子内会合は錯体の動力学安定性に影響し,末端OHをもつ錯体の熱分解温度が低くなることを見いだした。これに関連してまったく分子会合していないアルキル基のみを含みジチオカーバマート錯体は化学気相成長法による金属硫化物膜の優れた前駆体となることを明らかにした。
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