研究概要 |
遷移金属ジチオカーバマート錯体について錯体の外縁部にOHなどの水素結合性置換基を導入することにより分子間会合により特異な自己組織体を形成できることを明らかにすることができた。例えば2価の遷移金属ジアルキルジチオカーバマートにC_2対称になるようOH基を導入するとNiおよびCuについては集積化が進み,ナノメータサイズのマイクロチャンネル構造が出現することを見いだした。このようなマイクロチャンネル構造を利用することで新しいレセプター開発が期待できる。一方,Zn系においては自己組織化は認められなかったものの架橋ジチオカバマートをもつ一量俸構造を明白にすることができた。この場合,(Zn-S)_2コアを取り囲む末端水酸基はコアに対して対称性を保存しており,外部要因による分子間会合によりコンホメーションが変化することが明らかとなった。このことを利用することで新たなバイオセンサー構築への糸口を見いだすことができた。 以上の結果を受け,集積化錯体を利用したバイオセンシングデバイス実現に向け次のような検討を行った。例えばZnに対してC-末端が直接結合したオリゴペプチド鎖を導入し,その分子間あるいは配位子間相互作用に関する検討をスペクトル的に行った。その結果,ペプチド鎖は亜鉛中心の存在にもかかわらず,フリーの状態と似た相互作用を保持しており,第3分子の接近によって大きくコンホメーションをかえる可能性を見いだすことができた。この変化は中心金属周りの配位様式の変化に結びつくことからセンシングデバイスにおけるアクチュエータとしての機能が期待できる。 以上のように基礎的な知見ではあるが錯体分子の中に多数の水素結合部位を導入することで,多原子会合が出現し,特異な集積構造を形成したり,例えばマーカー分子との水素結合による相互作用によりアクチュエータ機能の発現へ結びつくコンホメーション変化を明らかにすることができた。
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