1 アルコキシドを加水分解して作製したゾルをコーティング液とし、シリコンウェハー上に種々の厚さのシリカおよびチタニアゲル膜を作製した。これらのゲル膜を赤外集光加熱炉中一定速度で800℃まで加熱し、この間光学顕微鏡によって膜のその場観察を行った。その結果、チタニア薄膜、シリカ薄膜のいずれにおいても亀裂は昇温過程で生じ、チタニア薄膜においては、亀裂の発生は結晶化よりも低い温度でおこることがわかった。また、膜厚の増加、昇温速度の減少とともに亀裂発生温度が低下することがわかった。 2 ポリビニルピロリドン(PVP)を含有するアルコキシド溶液をコーティング液とし、ディップコーティングによってシリカガラスならびにMgO単結晶基板上にBaTiO_3膜を作製した。SEM観察を行った結果、シリカガラス基板上に作製した焼成膜には粒界にそった亀裂が観察され、MgO単結晶基板上に作製した焼成膜には亀裂が見られなかった。これら微視的亀裂は、基板と膜の熱膨張係数差によって降温過程で発生する引っ張り応力により発生するものと考えた。 3 キレート剤としてジエタノールアミン、アセチルアセトンまたは酢酸を含むチタンアルコキシド溶液をコーティング液として作製したチタニア焼成膜中の残留応力は引っ張り応力であり、酢酸<アセチルアセトン<ジエタノールアミンの順に増大した。キレート剤の種類による残留応力増大傾向の違いは、緻密化の程度の差によって解釈できた。 4 PVPを含有するアルコキシド溶液あるいは金属硝酸塩溶液をコーティング液とし、スピンコーティングあるいはデイップコーティングによってシリカガラス基板上にBaTiO_3膜、Fe_2O_3膜、PZT膜を作製した。1回のコーティング操作によって亀裂の発生を伴うことなく達成しうる最大の膜厚(限界厚さ)は、BaTiO_3膜においてはモル比PVP/Ti(OC_3H_7^i)_4=0.5付近、Fe_2O_3膜においてはモル比PVP/Fe(NO_3)_3=0.付近、また、PZT膜においてはモル比PVP/(Ti(OC_3H_7^i)_4+Zr(OC_3H_7^n)_4)=1付近で最大となった。
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