本研究においては、塩化鉄(FeCl_3)を水素(H_2)で還元し鉄を得る以下の熱CVD反応プロセスにおいて静磁場を印加し、析出結晶の配向と微細組織に対する磁場印加効果について調べた。 2FeCl_3(g)+3H_2(g)=2Fe(s)+6HCl(g) まず始めに、常伝導電磁石を用い0.5T(tesla)の磁場を印加し、基本的なCVD条件を決定するとともに、X線による結晶配向評価法、SEM-EBSP、TEM法などによる組織評価手段の確立を行った。次に、東北大学金属材料研究所付属強磁場センターにおける超伝導マグネットに組み込むCVD装置の作製を行った。同センターにおいて、最大5Tの磁場印加を行い、基板温度、操作圧力、ガス組成、基板/磁場角度などの諸条件を変化させながら実験を行い、以下の点を明確にした。 1、印加磁場強度の増加に伴い、原料ガス(FeCl_3)の気化量が増加することが分かった。これは、特に5T程度に漸近すると効果が大きくなることが分かった。 2、数μmサイズの島状鉄結晶が、まず形成しこれが合体して膜状結晶になる。この形態は、非晶質である石英基板を用いたために生じたものであり、本反応系に特有であると考えられる。 3、磁場強度の増加に伴い、立方体形状を有する島状結晶の割合が高くなり、同時に(100)配向の度合いが高くなった。これは、鉄の磁化容易軸方向と一致しており、磁場印加によりエネルギー的に有利な方位を有する結晶核が優先的に生成するためであると解釈した。 4、島状から膜状に移行すると、(100)配向の度合いが低くなることが分かった。この原因に関して膜の結晶粒構造観察をもとに検討を行った。基板温度が鉄融点の半分程度である本反応系においては、zoneIII粒構造を有する膜が形成されており、これが(100)結晶配向度の低下現象と関係していると考えられる。
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