数十個以上の分子・原子の集まったクラスターは、少数多体系であるため分子とは異なった反応性を有することが明らかになっている。本研究では、酸素の反応性を高めるために電界で加速したクラスターイオンを用い、電子デバイスや光学部品さらに超伝導体など広く用いられている機能性酸化物薄膜を酸素クラスター支援蒸着法により形成し、高機能酸化膜形成を可能とするものである。 1分子あたり数eVに加速された酸素クラスターが表面に衝突したとき、多くの分子が同じ場所に一度に衝突し高温・高圧状態になる。この状態は、1ps程度間維持され、集団的な高励起状態が発生し、反応活性な酸素を高効率で酸化物中に取り込ませることが可能となる。酸素分子を励起するのに必要なエネルギーは数eVと基板に欠陥を生成するエネルギーより低いので、衝突によって酸化薄膜に欠陥を発生させることなく成膜することが可能となる。 酸素クラスターの持つ反応性を利用した金属酸化膜の成長時に生じる結晶基板表面の欠陥を調べた。分子動力学法を使った理論的な検討や結晶最表面の乱れを実験的に検討し、クラスターイオンの衝突時に生じる結果のエネルギー依存性について詳しく解析した。クラスター支援蒸着法で成膜した単純な金属酸化物の膜質を、様々な手法を使って調べ、酸素クラスター照射の影響を明らかにした。放射光によるEXAFSの測定を全電子収量法を使って行った。この結果、低温で成膜したアモルファスのTiO_2薄膜の結晶構造がルチル構造であることがわかった。さらに、ルチル、アナターゼと異なる結晶構造を持つTiO_2エピタキシヤル薄膜を加速電圧を変えることにより制御することが可能であることを見いだした。 今後、少数多体系であるクラスター衝突が起こす超高密度状態を活用した新規な材料プロセス技術の研究を進めていく。
|