本研究は、Mg-Ni系合金の高機能化に関する研究である.本合金系は、Mgの強い電気陰性度により吸蔵水素の脱水素化が困難で、Ni-MH電池系内ではMg(OH)2の生成が進行し失活していく.本研究は、Mg2Ni水素化物のイオン結合性の緩和を意図したグラファイトとの複合化過程で得られたMgNi3Cの脱水素化特性改善の効果、すなわち、Mg2Ni相と本相とのミクロ混相化効果に着眼し進められた. プロジェクト初年度の昨年、融解法では合成困難な改質剤MgNi3C及び空孔を有する非化学量論組成MgNi3Cx(X≦1)が、共晶合金MgNi3とグラファイトとのメカニカルアロイングにより合成できることを確認した.また、Mg2Ni合金と本改質剤MgNi3C0.75のミクロ混相体において、脱水素化特性の向上を確認した.しかし同時に、過大な改質処理は逆に特性を低下させるとの知見を得た. そこで本年度、先ず母相Mg2NiへのC原子の固溶状態ならびに炭化物MgNi3Cx(X≦1)との混相状態の解析を実施し、混相効果の発現機構を検討した.その結果、脱水素化特性改善の主因が、C原子の侵入による母相Mg2Ni格子の膨張と非化学量論組成炭化物(X<1)との混相化の相乗効果にあるとの強い示唆を得た.引き続き、更なる格子ひずみ効果の発現を期待し、多元化改質剤MgNi3-xMxCy(M=Co、Al : Y≦1)の合成と改質剤への適用を試みた.電気化学的水素化・脱水素化の繰り返し試験を通し、非化学量論組成炭化物とのミクロ混相化によって、最大容量580Ah/kgの実現とサイクル安定性の飛躍的な向上が可能であることを確認した.
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