鉄基合金を高温酸化するとクロムの選択酸化により表面にクロムを多く含む保護性酸化物皮膜が生成し、雰囲気と合金素地との接触が遮断されることによって酸化が抑制される。しかし、保護性酸化物皮膜が劣化することにより保護性が失われ、突然酸化が加速されることがある。この減少はブレークアウェーと呼ばれ、ブレークアウェーが発生すると急速に金属が損耗し問題であり、ブレークアウェーメカニズムの解明と防止手段の考察が切望されている。本研究は酸化の最初期段階における保護性酸化物皮膜成長の動力学および保護性酸化物皮膜の形成・破壊・補修過程における皮膜の性質評価をとおしてブレークアウェーメカニズムを解明することを目的として行われた。実験はFe-16Cr商用合金を873-1273K、酸素-水蒸気-窒素雰囲気中で最長1時間まで酸化し、その際の酸素取り込みによる質量増加(酸化増量)を測定した。また、板状の試料にアコースティックエミッションセンサーと水素センサーを取り付け、アコースティックエミッションと酸化による水蒸気の消費にともなう水素発生の同時計測を試みた。その結果、熱天秤による連続質量測定から皮膜の破壊が発生したと考えられる時間の直前では、確かにアコースティックエミッションイベントが頻繁に検出され、さらにそれ以前にもイベントは観測されて頻度が時間とともに増加することが明らかになった。また、アコースティックエミッションイベントがもっとも頻発する時間帯から、数秒の遅れを伴って水素発生が観測された。これより、皮膜破壊部を通して水蒸気が浸入し合金・酸化物界面で酸化反応が起こることが明らかになった。
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