本研究は、近年の電子産業の発展に寄与し、集積回路の高集積化の実現に重要な役割を果たす回路用銅箔のウェットエッチングに関する速度論的研究である。 本研究では注目するエッチングが液側物質移動律速であることを確認していることから、その物質移動特性が既知の撹拌搾槽を装置として用い、回路用銅箔のエッチング実験を行った。回路用銅箔試料には、錫箔表面に種々のレジスト間隔のパターンが刻まれているものを用いた。また本来のエッチング速度に対する考察を行うために、銅板および塩化第一銅(CuCl)板を用いた溶解実験も行った。 まず、注目するエッチングは、溶解時に銅表面に塩化第一銅が析出し、CuC1_2^-イオンの移動がその溶解速度を支配していることがわかった。そこで、塩化第一銅の溶解実験結果とともに、安息香酸-水系の溶解実験で得られた液側物質移動係数の関係式を用いて、その拡散係数を求めた。また銅板の溶解速度実験結果よりその妥当性を得た。 回路用銅箔のエッチングに関しては、その速度を求め、経時変化について検討した。その結果、時間の経過とともにキャビティ深さが増加するとエッチング速度が遅くなった。また、回路幅が狭い方がエッチング速度が遅くなり、物質移動抵抗が表れていることが明らかになった。この現象について、境膜説に基づく物質移動モデルを構築し、実際のキャビティ断面形状と比較したところ、レジスト間隔が狭い場合、よく一致した。しかし、レジスト間隔が広くなると計算値より実際のエッチング速度が速くなった。これは液本体の液の流動がキャビティ内に入り込み、影響を及ぼしていると考え、境膜外縁位置を溶解とともに移動させるモデルにより計算したところ、その現象をおおよそ表すことができた。 現在、塩化第二銅溶液ともにエッチング液として主流である塩化第二鉄溶液による銅のエッチングにも着目し、上述の知見をもとに更なる考察を進めている。
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