研究概要 |
現在,"ニューカーボン"の1つであるガラス状炭素(GC)の耐摩耗性と硬度の向上を図るために,窒素(N)イオン注入による表面改質が注目されている。Nイオン注入することにより,GC表面にsp^3C-sp^2N結合を主成分とする超硬質窒化物層を形成することが狙いである。しかしながら,注入量を増やしてゆくと,照射損傷によって黒鉛化が進行し,sp^2Cネットワーク中にNが結合したsp^2C=spN結合が主成分となり,注入層の硬度は低下する。また,同時に著しく表面が荒れるため耐摩耗性も低下する。以上のことから,必要以上に注入量を増やすことができず,期待通りの表面改質が行われていないのが現状である。そこで本研究では,GCに異種元素(SiおよびH)を添加し,Nイオン注入表面層の化学結合,構造,表面形態,硬度および耐摩耗性を系統的に調べ,異種元素添加効果を明らかにすることを目的とし,研究を行った。その結果,以下の成果が得られた。 1.Si原子添加によって,N飽和濃度を高めることができた。また,Nイオン注入層に混入される不純物0濃度を低減することができた。これにより,sp^3炭素結合形成が促進されることが予想される。 2.H原子添加によって,Nイオン注入に伴う表面荒れを著しく低減することができた。また,光電子分光法とラマン散乱分光法を用いて,Nイオン注入層のキャラクタリゼーションを行い,表面荒れがN原子を含むグラファイト層の大きさに依存することを見出した。水素原子添加GCでは,そのグラファイト層の大きさが無添加GCに比べて小さく,歪を緩和することによって表面荒れが抑制されていると推測した。 3.本研究の結果から,SiとHを一重添加したGCへのNイオン注入によって,さらに表面特性の優れたGCを創製できることが期待される。
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