ようやく実用化段階を迎えたアニオン交換膜とカチオン交換膜を張り合わせた構造を有する特殊なイオン交換膜であるバイポーラ膜を湿式製錬分野へ適用することを目的に、本研究は、このバイポーラ膜を用いて一連の強還元性溶媒Cr(II)、Ti(III)、V(II)を電解還元製造るための基礎試験を行い、電解諸条件が還元率および電流効率に及ぼす影響を調べ、その電解特性及び膜特性を調査した。さらに作製した強還元性溶媒の応用についての検討も行った。 まず、自作したバイポーラ膜(トクヤマ製ネオセプタBP-1)電解槽を用いて、バイポーラ膜電解によるCr(II)溶液の電解還元製造の条件について、従来のアニオン交換膜やカチオン交換膜を使用した電解に比べ、副原料としては水、用役として電力だけでCr(II)溶液ができる原理的優位性を確認し、しかも簡単な洗浄だけで連続使用が可能であるなどの利点があることを確認した。引き続きバイポーラ膜電解法によるTi(III)、V(II)水溶液の作製を硫酸塩および塩酸塩溶液の両方で検討した。ここでは主に電解諸条件と還元率で評価し、実験室規模での強還元性溶媒製造装置としての優位性を、またバイポーラ膜の優秀性と仕様通りの性能を確認した。 作製した強還元性溶媒の応用研究としては、次の2つテーマを実施した。まず、黄銅鉱の湿式還元分解の主反応を作製した還元溶媒(Ti(III))による溶液側から電位規制する電気化学的測定で調査した。90℃でpH1の硫酸溶液中で黄銅鉱の湿式還元分解反応はCuFeS_2(黄銅鉱)→Cu_5FeS_4(はん銅鉱)→CuS_2(輝銅鉱)の2段階で進行し、硫黄の3/4を潜在価値のある硫化水素として回収できることを確認した。 さらに複雑な装置や高温を用いないソフト溶液プロセスによるTiO_2の被膜や微粒子、またチタン酸塩の微粒子製造条件を検討した。低原子化状態の原料から作製しているので、従来法に比べ目的物が低い温度作製できることなどの特徴は認められたが、生成物の性質評価については、今後の課題として残された。
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