研究概要 |
粉粒体の衝突により材料表面が損傷除去される摩耗現象をエロージョンという。エロージョン摩耗には、多くの要因が関与し、現れる特性が複雑に変化する。このため粉粒体の流送が多くの利用例があり、エロージョンによる管路等の損耗、損傷事例が多数生じているにも拘わらず、最大損傷部位や、摩耗寿命を的確に推定する工学的手法がないのが現状である。 本研究では、対象材料として工業的に最も多量に用いられる鉄鋼材料を取り上げ、鉄鋼材料のエロージョン摩耗実験における基本的な手法、及び摩耗量の評価法を提案するために、ブラスト試験機による摩耗実験を行った。対象材料としてまず軟鋼材(SS400)を用い、粒子として鋼球グリットを用いた。摩耗量の評価基準としては、単位粒子量当たりの体積損傷量で定義される「損傷速度」を提案した。この手法による実験の結果、軟鋼材の損傷速度は、衝突角度20°〜30°で最大、60°近傍で一旦極小となり、80°〜90°で再び極大値をとるという特徴的な角度依存性を示すことが明らかになった。 また,軟鋼についで広く用いられる炭素鋼、曲がり管および管継手、化学工業等で用いられるステンレス鋼について同様のエロージョン実験を行った。その結果によれば、炭素鋼は、低角度側20°〜30°と高角度側80°〜90°に2つのピークを持つ双峰型の損傷速度曲線を示した。ステンレス鋼の内、フェライト系およびマルテンサイト系の角度依存性は、SS材と同様に双峰型であるが、最大摩耗量は高角度側の80°〜90°である。オーステナイト系では、20°で最大摩耗量を示し、高角度側では単調に減少する。このようにして、鉄鋼材料はその組織と硬さによって著しく異なる摩耗量および衝突角度依存性を示すことが明らかになった。 さらに、高温度環境下のエロージョン摩耗について調査した。その結果、損傷速度はターゲット材の機械的性質、粉粒体の形状大きく関与することを明確にし、その摩耗特性(衝突角度依存性)を把握した。また、高硬度である高クロム鋳鉄についても実験を行った結果、常温よりは摩耗が進むが、高温においても耐エロージョン材料としての有効であることを明確にした。
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