本年度は、界面物性の非線形振動を示す系を見出し、以下のことを明らかとした。 ○ジ2エチルヘキシル燐酸を有機溶媒に溶解させ、塩化カルシウムを濃厚に含む水溶液と接触させたとき、界面張力の振動が、最大数時間に渡って持続する。その振動の振幅は数mN/mにおよぶ。振動が発生しえる界面活性剤の濃度範囲は5mM前後の狭い領域である。また、この振動特性を解析した結果、振動は完全なランダム型ではない。強い振動の発生のためには、油水に吸着した界面活性剤分子間に強い凝集力が作用する必要がある。また、この振動の発生には、界面に吸着した界面活性剤とカルシウムイオンとの化学反応が関与していると思われる。 ○上記の油水界面には、自発的、継続的な表面流動が発生していることを見出し、この流動の特徴をトレーサー粒子を用いて観察した。その結果、流動は界面上のあらゆる位置からランダムに近い状態で発生しており、いったん発生すると、その流れは油水界面上を放射状に広がっていくことがわかった。この流れが発生する確率と、流れの伝播する速さを実験から求めた結果、油水界面が広がる界面の面積が十分大きければ、流れの発生する確率は有機溶媒の種類や温度には依存しないことを見出した。したがって、この流動の発生は、主に界面活性剤の分子論的な物性で決まっていると思われる。また、流れの伝播速度の測定から、流れは水溶液の粘性で散逸していることがわかった。 ○上記の表面流動現象と、界面張力の時間振動との関係を実験的に明らかとした。その結果、界面張力振動は、油水界面に吸着した界面活性剤単分子層の熱力学的不安定性が誘起する、界面組成の空間的不均一性に原因があり、それが、マランゴニ不安定性による表面流動を発生させ、その流れが界面張力測定部に到達することで、測定界面張力が振動していることがわかった。
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