複雑狭隘路における熱伝達促進を、流体に非ニュートン性を持たせた機能性流体が、狭隘路における循環流域を縮小させる性質を利用して行う方法の可能性を調べるために、縮小拡大を繰り返す流路を対象とした基礎研究を行った。本年は拡大部と縮小部との比が3:1の上下対称形状流路を対象にし、カチオン系界面活性剤である塩化オレイルビスヒドロキシエチルメチルアンモニウム2000ppmと、その対イオンとして、サリチル酸ナトリウムを1.5倍モル添加した水溶液を機能性流体として用いた実験を行った。流動条件として、スタントン数が大きくなる層流域となる条件を選定し、その場合の水の粘度基準のレイノルズ数は、流れの縮小部の水力直径基準で100から300の範囲とした。インク注入法によって流れの可視化を行い、急拡大部直後および縮小部直前に形成される循環流域に伴う、拡大部底部の再付着およびその後の再剥離の観察を行った。 その結果、純水の流れにおいては、本実験範囲のいずれのレイノルズ数においても、熱伝達が不良であると考えられる循環流域が、急拡大部と急縮小部間の拡大部においてほぼ全域にわたって形成され、流れが拡大部底部に再付着する現象は観察されなかった。一方で、機能性流体を用いた場合には、流れは急拡大部直後に底部に再付着し、そのため拡大部の循環流域が著しく縮小されることがわかった。したがって熱伝達不良域の改善が機能性流体を用いることでなされる可能性があることが示された。また、急拡大部直後の循環流域は、レイノルズ数の増大に伴って大きくなる一方で、急縮小部直前の循環流域の大きさは、レイノルズ数が大きくなるにしたがって小さくなり、本実験範囲では、常に拡大部の底部に循環流域が存在しない領域が存在することが確認された。 さらに、複雑狭隘路の熱伝達機構をしるために、数値解析の手法を用いることを考え、界面活性剤添加による機能性流体の粘弾性モデルに関する検討を、レオロジー特性の実験値から検討した。その結果、伸張ひずみ速度の高ひずみ速度域を除いて、遅延時間を考慮したGiesekusモデルで表現できることがわかった。本熱伝達促進手法で有効であると思われる層流域においては、十分に適用可能であることが示された。 来年度には、有効性を期待された場合について熱伝達実験を行い、本熱伝達促進法の有効性について検討する予定である。
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