下限臨界溶液温度(LCST)を有する高分子を主成分として調製したゲルは低温で水を吸って膨潤し、高温で脱水して体積が約1/10に収縮する熱刺激応答性を有する。この熱刺激応答性ゲルであるポリN-イソプロピルアクリルアミドゲルの中に、金属イオンと親和性を示す官能基を導入することで、温度変化に伴う、体積変化により2価の金属を吸脱着することができる。このゲルを用いて、銅イオンやカドミウムイオンなどの重金属イオンをわずかな温度差(10〜20℃程度)をドライビングフォースとして吸脱着するシステムを構築し、分離濃縮に関わる、ゲルの2価金属イオンに対する能動輸送のメカニズムについても検討した。銅、鉛、カドミウム、水銀、ニッケル、コバルトなどの各種の重金属イオンを対象として、低温条件、高温条件でのゲルへの吸脱着挙動を調べた。2価金属イオンはゲルが45℃で収縮状態のときにゲルに吸着し、25℃で膨潤状態のときに脱着した。これを繰り返すことで温度差のみをドライビングフォースとして能動輸送ができることが示された。共存イオンの影響やpHの影響を受けることも明らかとなった。銅イオンの場合、最終的に金属イオン濃度が1ppm以下まで吸着できた。これらの結果は、現在、論文発表を予定している。また、ポリN-イソプロピルアクリルアミドゲルは高温で収縮するゲルであるが、これとは逆に、高温で膨潤し、低温で収縮する熱刺激応答性ゲルであるUCST(上限臨界溶液温度)ゲルについての基礎研究も行った。また、ゲルを構成する高分子鎖に直接、官能基を導入するのではなく、吸着分子に対して親和性を有する物質をゲルに固定して、熱応答性ゲルとのコンジュゲートを構築し、有害物質や有用物質の吸脱着を行う試みもおこなった。これらの研究成果は、論文として発表することができた。
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