非対称性構造高分子膜は、片面に均一なスキン層を、他面に多孔性のスポンジ層を有するグラディエント化構造体であり、スキン層での透過分離選択性を保ちつつ、支持層となるスポンジ層での透過性が高いため、高選択性と高透過性を併せ持つ機能性材料と言える。ポリエチレン等のポリオレフィン膜は、耐薬品性や耐熱性に優れていることから膜材料として魅力的である。また、その低価格性のため産業界からの関心も高い。これらのポリオレフィンは室温では溶解させる溶媒がないため、通常の湿式法(非溶媒誘起相分離法)では作製することができない。従って、主に機械的な延伸法により孔を作製していたため、非対称性構造の作製に関する検討例はほとんどない。 本研究では、熱誘起相分離法(TIPS法)により非対称性ポリプロピレン膜の作製について検討を行った。昨年度の検討より、TIPS法において溶液に冷却速度勾配を形成させることにより、非対称性構造の達成を行い、得られた膜のUF分離特性を評価した。またCDSモデルを用い、相分離のシミュレーションを行い、非対称構造形成メカニズムの検討を行った。 今年度は、基礎的な検討課題として、ポリプロピレン分子量が多孔構造に及ぼす影響について検討を行った。光散乱実験より構造の成長過程の測定を行い、低分子量のものは、初期構造は小さいものの構造の成長が速く、数秒後には構造の大きさが逆転することがわかった。従って得られた構造は、高分子量のものはスピノーダル分解機構に由来する二層連統構造であったが、分子量が小さいものは孔が海島構造となることがわかった。 さらに、ポリプロピレンとポリブテンの高分子ブレンド系について多孔膜の作製を行った。ポリブテンはトルエンにより抽出が可能であるため、溶媒を除去した膜について、さらにポリブテンを抽出した膜の特性を評価した。ポリプテンの抽出により膜の分画特性はほとんど変化しないが、透過性が向上することが明らかとなり、このような2種類の高分子を用いる方法は、TIPS法による新しい手法となり得ることがわかった。
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