研究概要 |
本研究の目的は、「抗体可変領域(Fv)断片の抗原による安定化を利用した新原理高速免疫測定法に適したFv断片を,迅速かつ効率的に得るための方法論を確立すること」である. すでに昨年度,新原理高速免疫測定法(オープンサンドイッチ法)が可能なことが知られている抗リゾチーム抗体HyHEL-10の抗原結合能およびVH/VL相互作用を単一の遺伝子を持つ繊維状ファージを用いて簡便に測定できる新規システムを開発したが,今年度はこのシステムを用いて実際にライブラリからの目的抗体断片のスクリーニングを試みた.ライブラリとしては,抗原ペプチドで免役したマウス脾臓細胞由来の抗体可変領域断片をPCR増幅したものを用いた.この結果ライブラリサイズ10^6程度のものが実際に作製でき,初期ライブラリ由来のファージにおいて,わずかではあるが対照に比べ抗原結合性抗体断片が提示されていることを確認した.しかしながらこのファージを用いて抗原によるパニングを繰り返したところ,選択を繰り返す事による抗原結合性断片の濃縮は見られず,むしろ抗体遺伝子欠損ファージの割合が増加する傾向が見られた. この原因として,抗体一ファージコート蛋白融合蛋白質がファージ感染前の大腸菌前培養中にわずかながら発現し,これが細胞毒性を示すことにより結果的に毒性を示さない遺伝子欠損ファージの割合が増えることが考えられた.そこで発現誘導を行わない状態での潜在プロモータ様配列由来の転写を抑えるためのターミネーター配列をファージミドベクターに挿入した所,細胞毒性の顕著な低下が見られた.現在このベクターを用いていくつかの抗体断片につき再度遺伝子の安定性を検討中である.その安定性が確認され次第,再度ライブラリの作製およびスクリーニングを行う予定である.
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