外来の様々な病原体から生体を防御する際、液性免疫は重要な役割を担っている。液性免疫では、B細胞から産生される抗体が重要な役割を果たしていることが広く知られている。B細胞は、このような多様な抗体を産生するために、RAGによる抗体可変部遺伝子の組み換え反応を利用していることが明らかとなっている。しかしながら、種々の細胞工学的手法や遺伝子工学的な分析方法では、組み換え終了後の細胞に関する解析のみが可能であるため、どのような抗原特異性を持っていたB細胞でRAGが発現して抗体可変部遺伝子の組み換えが行われたのかということは明らかになっていない。そこで、本研究では、RAOを発現した細胞がどのような細胞であるのか、ということを調べるための実験系を確立することを目的として種々の検討を行った。 まず、2つのRAGの認識配列の間にDsREDとEGFP遺伝子を互いに逆方向に挿入したレトロウイルスベクターを作製した。このベクターにおいては、プロモーターに対してDsREDは正の向き、EGFPは、逆向きに挿入されており、RSS間で組み換えが行われるとreversionによりプロモーターに対する両蛍光遺伝子の向きが逆転する。そこで、このベクターをCHO細胞に導入した直後、細胞は赤色蛍光のみを発現したが、RAGが発現し染色体に組み込まれたベクターのRSSにおける組み換えが触媒されると、緑色蛍光を発現するように変化するのが観察された。さらに、胸腺切片に、作製したレトロウイルスベクターの感染を行ったところ、RAGを発現する細胞においては緑色蛍光を観察することができ、この緑色蛍光がRAGの組み換えにより発現が誘導されたEGFPの遺伝子発現によるものであることも明らかになった。以上のことより、本研究において作製したレトロウイルスは、RAGを発現する細胞の同定や、その生理的意義を明らかにする上で重要な役割を果たすと考えられる。
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