研究概要 |
ヒトゲノムのおおよその全塩基配列が2001年に発表され、2003年には正確な配列決定作業が終了しようとしている。このゲノム解析の結果をもとに新薬を開発するゲノム創薬で重要なことは、ゲノム情報から推定されるタンパク質の3次元構造と機能の相関に関する膨大なデータベースの蓄積と、デザインされた化合物から真に有効な物質を効率的にスクリーニングするシステムの開発である。特にこのスクリーニングシステムについては、近年動物とヒトでの薬物代謝様式の違いが指摘され、また創薬の元となるゲノム情報がヒト由来であることからも、ヒト細胞の利用が重要となってきている。 そこで本研究では、これまで筆者らが独自に研究してきた動物細胞の生体外組織化培養(スフェロイド培養)技術を、薬物代謝の主な担い手である正常ヒト肝細胞に適用し、昨年度までにヒト肝細胞の増殖条件、増殖後の組織形成による機能回復のための諸条件について知見を得た。本年度はさらに、肝細胞を用いた薬物の超微量スクリーニングシステムの開発を目的として、以下知見を得た。なお正常ヒト肝細胞はインフォームドコンセントにもとづいて研究用に米国で取得販売されているものを利用した。 (1)肝幹細胞の一種である肝芽細胞を多く含むと考えられる胎児由来の本細胞を、血清添加培地及び無血清培地を用いて、第8継代目まで増殖させることが可能となった。 (2)ポリ-L-アミノ酸を用いて、培養ディッシュ表面を被覆し、親水性(正電荷、負電荷)及び、疎水性に表面修飾した結果、本細胞はポリ-L-グルタミン酸、ポリ-L-アスパラギン酸などで被覆した負電荷表面で、スフェロイド化しやすいことが明らかとなった。 (3)薬物代謝の中心酵素である肝細胞のシトクロームP450活性(CYP1A1,CYP1A2,CYP2B1/2)を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、細胞1個のレベルで観察・定量化できる測定系を確立した。 (4)単層状態で増殖させた後に、細胞をスフェロイド化させることでP450活性が約3倍向上することが明らかとなった。
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