本研究は、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)水溶液と各種無機塩の混合によって形成される二水相による金属、ポルフィリン化合物および環境ホルモンの分離分析法の開発を目的とした。TBABの水溶液に(NH_4)_2SO_4やNaClを加えると塩析効果によって二相が形成され、上相はTBAB濃度の高い親油的な性質を示し、有機化合物や電気的に中性な金属錯体を抽出することが可能である。TBAB-(NH_4)_2SO_4系二水相によってCd^<2+>が、他の共存イオンの影響を受けず選択的に分離できることを明らかにした。このとき、Cd^<2+>はCdBr_4^<2->・2TBAB^+のようなイオン対を形成して抽出されると考えられる。この方法を利用して、高濃度亜鉛中の微量Cdの選択的分離分析法を開発した。 次に食品の着色剤として利用されている銅クロロフィリンナトリウム、ビタミンB12および環境ホルモンの一つであるビスフェノールAの二相間における分配挙動を調べた。その結果いずれの化合物も幅広いpH領域で定量的に上相に抽出されることが明らかとなった。これらの化合物の抽出機構は、主にTBABとの疎水性相互作用によるものと推測された。さらに、添加される無機塩の種類によって分配挙動が大きく異なっており、Li_2SO_4やNa_2SO_4が大きな分配比を与えた。これらの塩は大きな負の水和エネルギーを持っており解離したイオンが水分子を強く引きつけるため、TBABの塩析が効果的に起こると考えられる。その結果、上相は一層親油的になり、溶質の分配が大きくなるものと考えられる。
|