臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の水溶液に(NH_4)_2SO_4などの無機塩を添加すると塩析作用により水性二相が形成される。本研究は、この二水相を分離の場とする新しい溶媒抽出法に関して検討したものである。これまでに、CdおよびCr(VI)の選択的抽出分離法を確立した。これらの有害金属は排出が厳しく規制されており、選択的分離分析法の開発は、環境科学の分野においても極めて重要な課題と言える。 Cdに関しては、多量の亜鉛(モル比でCdの19000倍)から、選択的に分離濃縮でき、Cdの分離分析法として、非常に優れた方法と言える。Cdの抽出メカニズムは、初めにCd^<2+>がBr^-と錯陰イオン(CdBr_4^<2->)を形成し、その後TBA^+とイオン対を形成して、TBAB濃度の高い疎水的な上相に抽出されると考えられる。一方、Cr(VI)についても、多量のCr(III)の影響を受けずに選択的に分離できた。Cr(VI)は酸性領域で(HCrO_4)^-となりそれが、TBA^+とイオン対を形成して、上相に抽出されることが明らかとなった。 さらに、本法の幅広い実用性を確認する目的で、食品などの着色に利用されている銅クロロフィリンナトリウム(CuCL-Na)および環境ホルモンのビスフェノール(BPA)の分離濃縮についても検討したところ、いずれも効率よく分離濃縮できた。本法は、有機溶媒およびキレート試薬も用いずに有害元素のCdおよびCr(VI)を選択的に抽出できる点で優れており、また亜鉛試料や廃水試料にも利用できることから実用性が確認された。また金属の固相抽出法と比較した場合、水性二相抽出法は様々な物質の分離濃縮と言う点で優れているが、大量の試料溶液の処理に対しては固相抽出法が有利である。
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