第四級アンモニウム塩の一つである臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の水溶液に(NH_4)_2SO_4やNaclなどの塩を加えると塩析作用により二水相が形成されるが、これを溶媒抽出分離に利用した例は見当たらない。そこで本研究では、この二水相を分離の場とする新しい溶媒抽出法に関して検討し、さらにその実用性について評価した。分離分析の対象物質として、Cd、Cr(VI)、ビスフェノールA(BPA)などを選択した。これらの物質を選択的に分離分析する方法の開発は、環境化学の分野においても重要な研究課題である。 TBAB-(NH_4)_2SO_4系水性二相により、Cdは幅広いpH領域で定量的に抽出できた。Fe、Cu、Coなどはほとんど抽出されなかった(1%以下)。Znは約20%抽出されるが、多量に共存してもCdの抽出には全く影響を与えなかった。水性二相抽出を利用して亜鉛試料から微量のCd選択的に分離分析する方法を開発した。さらにCr(VI)も酸性領域において定量的に抽出され、Cr(III)が多量に共存していても全く妨害しないことが分かった。本法を廃液中のCr(VI)の定量に応用したところその実用性が認められた。 溶液中でCd^<2+>はCdBr_4^<2->を形成し、一方Cr(VI)は酸性領域でHCrO_4となりこれらの陰イオンがそれぞれTBA^+とイオン対を形成してTBAB濃度が高い上相に抽出されることが明らかとなった。さらに、銅クロロフィリンナトリウム(CuCL-Na)及びBPAの分離濃縮についても検討したところ、いずれも定量的な抽出が可能であった。BPAはTBABとの疎水性相互作用により上相に抽出されると考えられる。二相抽出法をチューインガム中のCuCL-Naの定量および海水、河川水中のBPAの定量に応用した。これらの結果から、TBAB-(NH_4)_2SO_4系を利用した水性二相抽出は、様々な化合物の抽出分離に有効な方法であることが明らかとなった。
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