電極表面反応ダイナミクス構築をめざした基礎研究

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12650803
• 研究機関: 北海道大学
• 研究代表者: 大澤 雅俊 北海道大学, 触媒化学研究センター, 教授 (00108466)
• キーワード: 電極表面反応 / 速度論 / 反応ダイナミクス / 時間分解赤外分光 / 電子移動 / 吸着 / 酸化還元反応 / 電位振動

研究概要

本研究は、電気化学計測に基づく従来の電極反応速度論を越える反応ダイナミクス論を構築することを目的とする。従来の電気化学計測は、分子構造情報が得られないこと、必然的にすべての反応プロセスの和の情報を与えるところに問題がある。本研究は、独自開発した時間分解表面増強赤外分光法(TR-SEIRAS)を用いることによって、「関与する反応種ごとの動的過程」と、「電子移動過程」を明らかにすること目指している。本年度は以下の成果が得られた。
1.従来の電気化学的手法による速度論解析と、TR-SEIRASによる「化学種ごと」の速度論解析を比較した。Au(111)電極表面でのCuのアンダーポテンシャル析出・溶解過程を例とし、両方を組み合わせることによって初めて反応プロセスが理解できることを示した。
2.分子吸着・脱離過程、吸着分子の酸化還元反応、電位変化によ吸着分子の酸塩基平衡シフトなど、様々な反応プロセスの速度論解析を行い、従来の電気化学的手法では素反応過程の一部しか捉えていないことを明らかにした。例えば、電極表面に固定したアントラキノン単分子膜の酸化還元の場合、電気化学測定で示唆される単純な2電子2プロトン反応ではなく、少なくとも2つの中間体を経て反応が進行すること、それらの寿命がナノ秒とマイクロ秒のオーダーであることが、TR-SEIRAS測定によって明らかにした。
3.ギ酸を含む酸中のPt電極表面における電位振動現象のダイナミクスを検討した。振動と同期して、いずれも表面被毒種であるCOとギ酸イオンの表面濃度が変化することを明らかにした。これまでに振動のメカニズムがいくつか提案されているが、測定結果はいずれのモデルとも一致しなかった。新しいモデルを提案すべく、現在シュミレーションを行っている。

研究成果

• [文献書誌] L.-J.Wan, M.Terashima, H.Noda, and M.Osawa: "Molecular Orientation and Ordered Structure of Benzenethiol Adsorbed on Gold (111)"Journal of Physical Chemistry B. 104. 3563-3569 (2000)
• [文献書誌] H.Noda, T.Minoha, L.-J.Wan, and M.Osawa: "Adsorption and Ordered Phase Formation of 2,2'-bipyridine on Au (111) : A combined Surface-Enhanced U＼Infrared and STM Study"Journal of Electroanalytical Chemistry. 481. 62-68 (2000)
• [文献書誌] K.Ataka, G.Nishina, W.-B.Cai, S.-G.Sun, and M.Osawa: "Dynamics of the Dissolution of an Underpotentially Deposited Cu Layer on Au (111) : A combined Time-Resolved Surface-Enhanced Infrared and Chronoamperometric Study"Electrochemistry Communications. 2. 417-421 (2000)
• [文献書誌] L.-J.Wan, H.Noda, Y.Hara, and M.Osawa: "Effect of Solution pH on the Structure of a 4-Mercaptopyridine Monolayer Self-Assembled onon Au (111)"Journal of Electroanalytical Chemistry. 489. 68-75 (2000)
• [文献書誌] 大澤雅俊: "赤外分光法による電極表面のその場測定"Electrochemistry. 69. 63-67 (2001)
• [文献書誌] W.-B.Cai, T.Amano and M.Osawa: "A Comparison of Surface-Enhanced Infrared Absorption andSurface-Enhanced Raman Spectra of Pyrazine Adsorbed on Gold Electrodes"Journal of Electroanalytical Chemistry. 500(印刷中). (2001)
• [文献書誌] M.Osawa (分担執筆): "Near-Field Optics and Surface Plasmon Polaritons"S.Kawata (編集)Springer (印刷中). (2001)
• [文献書誌] M.Osawa (分担執筆): "Handbook of Vibrational Spectroscopy"J.Chalmers and P.R.Griffiths(編集)Wiley(印刷中). (2001)