電極反応は、これまで電流の計測を主とする手法で研究されてきた。しかしながら、これら電気化学的解析で得られるのは「すべての反応の和」であり、反応に関与する分子種を直接観ていないところに大きな問題がある。本研究では、時間分解表面増強赤外吸収分光(SEIRAS)を用いて、表面反応に関与する分子種を直接かつリアルタイムに観測し、従来の速度論を越える反応ダイナミクスを確立することをめざした。主な成果は以下の通りである。 1.電極表面への分子吸着挙動と吸着分子層の相転移 多くの系で、初期にはランダムに吸着し、数十マイクロ秒でいったん飽和に達する。その後、秒の時間オーダーで配向を変化させることによって吸着量を増加させる。特定の分子では第2段目の過程で規則配列構造を形成する。規則配列構造は電極電位、溶液のpH等でコントロールすることが可能である。 2.Au電極上のCu吸着単原子層の溶解ダイナミクス 時間分解SEIRASと過渡電流の同時測定により、同時進行する2つの反応過程を区別することができることを示した。それぞれの反応過程の速度論的解析により、溶解メカニズムを明らかにした。 3.吸着分子と電極表面間の電荷移動 SEIRASスペクトルとラマンスペクトルの比較から、可視光照射により電極-吸着分子間で電荷移動が起こっていることを示す有力な証拠が得られた。また、電極表面に固定した酸化還元系で、短寿命反応中間体の存在を確認した。 4.表面増強赤外吸収分光の技術的進展 SEIRASに使用できる電極はこれまでAu、Ag、Cuに限られてきたが、無電解めっき法の採用により、Pt属金属ならびにそれらの合金にまで拡張した。 5.C1化合物の電極触媒反応解析 直接型メタノール燃料電池を念頭に置き、その基礎となるPt触媒電極表面におけるC1化合物の陽極酸化機構を詳細に検討した。
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