研究概要 |
燃料電池に使用される安価なプロトン導電体を探索することを目的とし、その材料を無機化合物に求めた。現在知られているプロトン伝導は、100℃以下での吸着水分子を仲介とするものと、1000℃付近におけるペロブスカイト酸化物中の単独伝導の2つがある。本研究では、水和した無機化合物を合成し、中温域で良好な導電率を示す材料を探索した。 (1)アルコキシドの加水分解によるセラミクス粒子を合成した。このような低温合成法では粒子の成長が顕著でないので表面積が大きく、大量の水分子が表面に吸着している。合成した試料はTiO_2,Al_2O_3,ZrO_2,SiO_2,BaTiO_3である。これらのプロトン導電性を室温から90℃の範囲で相対湿度を80%に保って測定を行った。全てほぼ同じ10^<-3>〜10^<-4>Scm^<-1>台(90℃)の導電率を示した。また昇温時と比べ降温時の導電率が低くなった。以上の結果より粒子表面の吸着水が仲介するプロトン伝導は吸着材である無機化合物の種類は殆ど影響せず、一方で外界の湿度の影響を強く受けることが分かる。 (2)吸着水による伝導において導電率の増強を行うには、プロトンの濃度を大きくすることがある。そこで超強酸とよばれる材料を合成した。ジルコニアの表面に硫酸根を固定したものを合成し、導電率を測定したがわずかな導電率の増強しか観測されなかった。 (3)水分子を利用しない材料としてLn(OH)_3 (Ln:ランタノイド)を検討した。この材料についてはまだ検討の余地が残されているが、ランタノイドによって広い範囲の導電率を示す。また昇温時と降温時のヒステリシスのない挙動を示した。これは水分子を必要としない伝導が発現している可能性がある。もっとも良い場合で10^<-2>Scm^<-1>台の導電率が得られた。これにより200〜300℃付近の中温域でのプロトンイオン導電体が期待できる。
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