研究概要 |
液体の界面に存在する界面張力波は常温においても励起されており,その振幅はナノメータ程度と言われている。また,そのエネルギーは非常に小さいため,光を照射したときの非弾性散乱による波長のシフトも非常に小さく,分光器や干渉計を使った方法では散乱スペクトルの測定が困難である。本研究では液体界面の界面張力波のスペクトルを光ビートによって測定することを試みた。散乱に寄与する界面張力波の波数を正確に規定するためには散乱角を厳密に調整する必要があった。この調整は分割フォトダイオードによって光ビームの位置決めを行うことにより達成され,散乱角を0.01度程度の精度で合わせることを可能にした。この装置構成を用いて,空気/水,空気/2.5M臭化カリウム水溶液,トルエン/水,トルエン/2.5M硝酸銅水溶液,トルエン/2.5M臭化カリウム水溶液の各界面について光散乱スペクトルを測定した。このとき,水は過マンガン酸カリウムによる酸化蒸留を行ったものを用い,トルエン,硝酸銅については特級試薬を,そして,臭化カリウムについては超高純度の試薬を用いた。得られたスペクトルを流体力学の理論曲線に回帰することにより,界面張力および水相側の粘性係数を求めた。さらに,これらの値の時間経過に伴う変化を検討した。その結果,水相が電解質を含まない場合,界面張力および粘性係数ともに時間が経過しても一定の値を示したのに対し,電解質を含む場合には界面張力は時間の経過とともに減少し,数日後に一定なり,また,粘性係数に関しては,値が比較的大きく変化した。電解質試薬に含まれる不純物の影響も考慮しつつ,電解質が溶解していることに対する界面張力波への影響を検討する必要があると考えられる。
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