研究概要 |
電子線パルスによるパルスラジオリシス法によりメトキシベンゼン類のラジカルカチオンを比較的極性の低い塩素系溶媒中において発生させ、電子線に同期させたレーザーパルスによりラジカルカチオンを励起し蛍光を測定することに成功した。塩素系溶媒中においては放射線化学反応により溶媒から塩素アニオンが生成し、1,3,5-トリメトキシベンゼンラジカルカチオンとイオン対を形成する。このイオン対形成において、フリーなラジカルカチオンの蛍光量子収率とイオン対における蛍光量子収率をそれぞれ決定した。これらの蛍光量子収率から電子線パルス照射後の各時刻における蛍光量子収率を測定することにより各時刻におけるフリーなラジカルカチオンとイオン対状態にあるラジカルカチオンの比を決定することに成功した。この測定から極性の低い塩素化溶媒中ではフリーなラジカルカチオンは時間とともに塩素イオンとイオン対を形成し、電子線照射直後においても約40%のラジカルカチオンがイオン対状態にあり、約1マイクロ秒においては70%程度のラジカルカチオンがイオン対状態となることを明らかにした。 一方、極性の高いアセトニトリル中の1,3,5-トリメトキシベンゼンと1,4-ジシアノナフタレンの間の光誘起一電子移動により生成する1,3,5-トリメトキシベンゼンラジカルカチオンの蛍光スペクトルと1,4-ジシアノナフタレンラジカルアニオンの吸収スペクトルは互いに重なりがある。このために、励起状態の1,3,5-トリメトキシベンゼンラジカルカチオンから1,4-ジシアノナフタレンラジカルアニオンへの励起エネルギー移動が起こることを見出した。この現象を光誘起一電子移動後の拡散的なラジカルイオン間距離の測定に適用し、光誘起一電子移動直後においてラジカルイオン間の距離が6-8Åであったのが200ナノ秒後には20Å程度にまで増大することを見出した。 また、3,5-ジメトキシフェノールラジカルカチオンについても蛍光観測に成功した。
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