研究概要 |
本年度は五酸化バナジウムキセロゲルに対するマグネシウムの電気化学的挿入挙動について検討を行った.デカバナジン酸の水溶液の自発的な重合によって得られるゲル溶液を加熱乾燥することによって五酸化バナジウムキセロゲルを合成した.合成した五酸化バナジウムキセロゲルの含水量を熱天秤を用いて調べ,90および150℃の乾燥条件で,含水量および層間距離が異なる五酸化バナジウムキセロゲルを調製した.調製した2種類の五酸化バナジウムキセロゲルを正極に用い,過塩素酸マグネシウムを含有する炭酸プロピレン溶液中において定電流放電を試みた.90℃乾燥試料を用いた際の放電曲線において,通電電気量の増加に伴って放電電位が単調に減少した.五酸化バナジウムキセロゲルに対するリチウム挿入においても,同様の放電曲線が得られていることから,五酸化バナジウムキセロゲルは半結晶性であるため,イオンの挿入に伴う明確な構造変化が起こらず,マグネシウムイオンの挿入においても単相固溶で見られるような電位変化が観測されたと考えられる.さらに,電気化学的にマグネシウムが挿入されたことを確認するため,様々な通電電気量で放電を行った試料について元素分析を行った.その結果,バナジウム原子2個あたり約0.8個までマグネシウムイオンが挿入されていることが確認され,その挿入量までは通電電気量と元素分析によって決定された挿入量は一致した.一方,150℃乾燥試料を用いた場合には挿入量はバナジウム原子2個あたり挿入可能なマグネシウムイオンは約0.5個に減少した.これは,150℃乾燥試料では90℃乾燥試料に比べ層間距離が狭いことから,速度論的要因によって挿入量が減少したと考えられる. 以上の結果,五酸化バナジウムキセロゲルのリチウム二次電池正極としての特性を解明する上で,マグネシウムの電気化学的挿入挙動に関するこれらの知見から,貴重なヒントが得られた.
|