前年度では比較的広範囲に渡って亜鉛(II)イオンを計測できるものの、キレート化剤の通液に伴う活性低下が著しく、操作安定性に問題が残された。そこで本年度ではより高活性な固定化標品を取得することを目的として、サーモリシンに対する良溶媒としての臭化ナトリウムを酵素液に添加し、高濃度酵素液を調製することに成功した。さらに固定化を従来と同様に、グルタルアルデヒド架橋法により試みた結果、ほぼ50%近くの収率で固定化物を得る事ができた。 この成果に基づき、フローカロリメトリーを適用した計測システムを構成し、識別素子としての性能を検討した。この標品は活性に富み、4.0mMの合成基質(N-3-[2-furyl]acryloyl)-gly-leu amide)を1.0mL添加すると、約4mKの発熱応答を示し、しかもその再現性は極めて良好であるということが明らかになった。アポ酵素への変換試薬として2.5mLの0.1M EDTA液(pH4.0)をカラムに通液すると、ほぼアポ酵素に近い状態が得られた。このようにして、アポ酵素への変換条件を設定し、酵素カラムの再活性化に及ぼす亜鉛(II)イオン濃度の影響を検討した結果、1.0mLの通液に対し、0.01〜1.0mM範囲で計測可能なことを示すことができた。 識別素子としての、サーモリシン固定化物については亜鉛(II)イオンの通液量依存性、選択性、実試料への応用などの項目が残されている。また、さらなる高感度を追求するためには、完全にアポ酵素の状態に変換する条件の確立が要求されている。
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