研究概要 |
平成12年度では、代表的な亜鉛酵素であり、熱安定性に富んだ中性プロテアーゼであるサーモリシンを用い、アポ酵素活性化法に基づいたフロー式計測システムを槽築した。最初に、水に難溶性のサーモリシンを定量的に微細孔性ガラス微粒子上に固定化することを試みた。40%グリセリン含有のホウ酸塩緩衝液を用いると、30%程度の収率で固定化物が得られることが示された。そこで、ホトメトリー形式の計測システムを組み立て、触媒活性のモニタリングを行い、計測特性を求めた。ミリモーラーからナノモーラーレベルに渡り、比較的広範囲の亜主鉛(II)イオンを計測できるものの、キレート化剤の通液に伴う活性低下が著しく、操作安定性に問題が残された。 平成13年度では、さらに高活性な固定化標品を取得することを目的として、サーモリシンに対する良溶媒としての臭化ナトリウムを酵素液に添加し、高濃度酵素液を調製することに成功した。次いで、グルタルアルデヒド架橋法により従来と同様に固定化した結果、ほぼ50%近くの収率で固定化物を得る事ができた。 この成果に基づき、フローカロリメトリーを適用した計測システムを構成し、識別素子としての性能を検討することとした。この標品は触媒活性に富み、4.0mMの合成基質(N-(3[2-furyl]acryloyl)-gly-leu amide)を1.0mLだけ固定化酵素充填カラムに通液すると、約4.0mKの発熱応答を示し、しかもその再現性は極めて良好であることが明らかになった。アポ酵素への変換試薬として2.5mLの0.1MEDTA液(pH4.0,0.1MNaCl含有)をカラム中に導入すると、触媒活性は著しく低下し、5.0mL通液した場合にも活性の低下率には変動は見られなかった。 そこでキレート化剤の注入量を2.5mLに設定し、酵素カラムの再活性化に及ぼす亜鉛(II)イオン濃度の影響を検討した結果、1.0mLの通液に対し、0.01〜1.0mMの範囲にて温度応答との間に相関関係示された。 識別素子としての、サーモリシン固定化物については亜鉛(II)イオンの通液量依存性、選択性、実試料への応用などの項目が残されている。また、さらなる高感度微量計測を追求するためには、完全にアポ酵素の状態に変換する条件の確立が要求される。
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