本研究は、異なる組成及び構造を有するチタニアゲルについて、擬似体液中におけるアパタイト形成能を追究し、チタニアゲルの生体活性の組成及び構造依存性を明らかにし、優れた機械的物性と高い生体活性を備えた人工骨用チタン及びその合金の調製原理を与えることを目的とする。 TiO_2、Na_2O-TiO_2及びCaO-TiO_2系において、ゾール-ゲル法によりチタニアゲルを調製し、さらにこれらを種々の温度で加熱処理することにより、種々の組成及び構造を有するチタニアゲルを作製し、これらのゲルをヒトの体液にほぼ等しい無機イオン濃度を有する擬似体液に種々の期間浸漬した。これらのゲルはアナタースやルチル構造を有する場合のみに、擬似体液中でアパタイトを形成すること、及びゲル中のアナタースの量が高いほど、高いアパタイト形成能を示すこと、すなわちチタニアの構造の中、アナターズ構造がアパタイトの形成に最も有効であることが明らかになった。 上記の結果に基づき、チタン金属表面に高いアパタイト形成能を有するアナタース構造を形成させるために、同金属を種々の条件で、NaOH水溶液中に浸漬し、さらに温水に浸漬した後、加熱処理した。NaOH水溶液処理により、チタン金属表面に傾斜構造を有するチタン酸ナトリウムの水和ゲルの薄層が形成されること、同チタン酸ナトリウムゲルが温水処理により、ナトリウムイオンを溶出し、非晶質あるいはアナタース構造を有するチタニアゲルに変化すること、及び同チタニアゲルが600℃での加熱処理により、アナタースに変化し、その量が増大することが明らかになった。NaOH水溶液、温水及び加熱処理を施したチタン金属は、擬似体液中で早期にその表面にアパタイトを形成することが明らかになった。同NaOH水溶液、温水及び加熱処理により、表面にアナタース構造を形成させたチタン金属は、高いアパタイト形成能、すなわち生体活性と高い破壊靭性を併せ示すので、荷重の加わる部位にも用いられる人工骨材料として有用であると期待される。
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