エノラート類の不斉プロトン化反応は、光学活性なα-置換カルボニル化合物の効率的合成手法の一つである。本研究はアミノ酸誘導体のエノラートに焦点を絞り、L体(天然型)とD体(非天然型)のアミノ酸をそれぞれ高い光学純度で作り分けることができるようなキラルプロトン源の開発を目的とする。アミノ酸誘導体のエノラートの不斉プロトン化反応の開発にあたり、プロトン化剤について種々検討を行った結果、まず、分子内にキラルな2-オキサゾリン基を不斉補助基に持つキラルベンジルアルコール誘導体、およびテトラヒドロフラン環を基本骨格とする三級のキラルアルコールが、アラニンのメチルエステル誘導体のリチウムエノラートのプロトン化剤として、効果的であることがわかった。そこで、さらに高いエナンチオ選択性の実現および様々なアミノ酸誘導体のエノラートへの適用が期待できるキラルプロトン化剤の開発を目指して、入手容易な不斉源であるアミノ酸から誘導したキラルアミドに焦点を絞って研究を行った。最初にアミノ酸として嵩高いL-tert-Leucineを選び、そのアミノ保護基および、アミド形成に用いるアミンに関して、色々な組合わせを検討したところ、アミノ保護基としてビオチン前駆体、アミンとしてイソプロピルアミンまたはシクロドデシルアミンを用いた場合に、単純な2-アルキル置換環状ケトンのリチウムエノラートに対して、有効なキラルプロトン化剤と成り得ることを見い出した。そこで、このビオチン骨格を有する不斉プロトン化剤を、アラニン誘導体のリチウムエノラートに対して作用させたところ、(R)体のアミノ酸誘導体が最高80%eeの良好なエナンチオ選択性で得られた。また、これらのキラルプロトン化剤は、その他のアミノ酸誘導体のリチウムエノラートに対しても、効果的な不斉プロトン化剤として機能することがわかった。
|